モスクワ川でクルージング
夏は、待ちこがれたレジャーの季節。モスクワ川沿いでは、緑の
土手で肌を惜しげもなくさらして日光浴をする人や、川遊びをする人々の姿を見かける。また、
船舶の往来も非常に盛んだ。
ここ数年めっきり増えたのは、郊外のモスクワ川の波を切って進むクルーズ船の姿である。これは、モスクワ市民の所得の急激な上昇を背景に、 高級自家用車は手に入れたので、次はクルーズ船という人が増えていることにある。
モスクワ郊外、モスクワ川沿いにあるクルーザー・ヨット・クラブMRPでクルージングを楽しむブロニコヴァさん一家を訪ねた。
ナタリヤ・ブロニコヴァさんは現在MRPの副社長を務める。
MRPはモスクワ河川汽船局(※)の頭文字で、2004年に誕生。当時は3つの桟橋でスタートしたが、その年の夏にはすぐに満員になり、 1年に一つずつ桟橋を増設して現在では7つの桟橋を持っている。クルーザーやヨットの数も60隻から240隻にまで増えた。
1か月の係留料金は、船舶全長1mあたり1万8000ルーブル(約8万円)。安い値段とはいえないが、予約に列ができるほどの人気だ。
ナタリヤさんは「シーズン毎にクルーザーを買い換えるお客様もかなりいます。わが家の愛艇は今年で4年目ですが、 毎シーズン買い換えて4隻目という人もいます。
これはクルーザーの経験が浅いためともいえます。実際に試すまで自分で何が本当に欲しいのかがなかなか分からないものなのです。 初心者は大抵6mのヨットから始め、徐々に大きな船に換えていきます。ヨットやクルーザーの趣味というのはほとんど病気のようなもので、 魅力に取り付かれるとのめり込んでしまうのです」という。
ヨットクラブはステータス
モスクワの好景気を背景に大型クルーザーもよく売れている。
「クルーザーのモデルの種類はとても多いです。自動車の種類の数と比べると10倍を超えるでしょう。
40? 50mの大型クルーザーは、 ビジネス向けといえます。例えば船上で重要な契約に調印をしたり、会議を行ったり、 プレゼンテーションやビジネスのパーティーを開いたりして、企業のイメージをアップさせるのです。
クルーザーには女性の名前を付けます。妻や恋人の名前を付けるのが普通ですが、こんな笑い話もあります。 お客様がネリーという船が停留してあるはずだというのですが、見つかりません。後で分かったのですが、 そのお客様の船はナースチェンカといって最初の奥さんの名前だったのです。お客様は再婚して船の名前も変えたつもりだったのですが、 そのことをクラブに連絡するのを忘れていたのです」
モスクワには現在いくつものヨットクラブがあるが、MRPは当初から単なるヨットクラブではなく、 技術整備サービスが主体となるマリーナとして位置付けられていた。
「当初はクルーザーやヨットの整備や保守・点検をする会社という考えがなく、持ち主は、自分で燃料を注ぎ、 整備をしていたものです。 1990年代当初の外車の整備サービスが発達していなかった状況に似ていました。ステータスシンボルであるはずのヨットやクルーザーですが、 その整備・保守は持ち主の頭痛の種でもあったのです」
このためMRPの発足時の宣伝文句は”頭痛なしのクルーザー管理“であった。
保守・点検サービスの提供には、80年の歴史を持つフレーブニコフスキー造船・ 機械工場があることが大きい。2005年には50m長のクルーザーの吊り上げが可能な160トン級のモスクワで最大の船舶用クレーンも設置した。
また、MRPではレクリエーション設備にも力を入れており、敷地の隣の沼を干拓し土壌を強化して、1000名収容可能なレクリエーション・ ゾーンを作った。敷地内にはシーフードレストランや宿泊できるコテージもあり、企業の社員親睦会に使用されることも多い。
ほかに、MRPでは、毎年開かれるモスクワヨット祭というモスクワ川でのクルーザー展示会に参加している。2007年には 「最高のヨットクラブ」賞、2008年にはイーゴリー・コーズィレフ社長が「最高のヨットクラブ経営者」賞を授与された。
愛馬と大会出場を目指す
<ナタリヤ・ブロニコヴァさんのライフスタイル>
モスクワのクルーザー・ ヨット・クラブMRPの副社長ナタリヤ・ ブロニコヴァさんの家族は、夫イーゴリ・コーズィレフさんと2人の息子 (12歳と9歳) の4人家族。 子どもたちがそれぞれ自分の趣味に熱中する年齢になり、今、彼女は自分の大好きな乗馬に夢中だ。 この秋の馬術大会出場を目指している。
毎朝クルーザーで出勤
MRPの副社長ナタリヤ・ブロニコヴァさんの家は、モスクワ北部の汽船発着所「川の駅」のすぐそばにある。このあたりは、 シェレメチェヴォ国際空港に向かうレニングラーツキー街道の沿線で、モスクワでも有名な交通渋滞の場所だ。しかし、 ナタリヤさんの朝は渋滞知らずの快適な通勤で始まる。というのも「川の駅」に係留している自家用ボートを操縦して毎日仕事場に向かう。 モスクワ川沿岸の緑を眺めながら、川風を頬に受けての通勤だ。
ナタリヤさんは、もともと船好きだった訳ではない。ボート操縦の技能と趣味は夫譲りのもの。夫イーゴリ・コーズィレフさんは、 MRPの母体企業であるフレーブニコフスキー造船・機械工場の社長である。イーゴリさんは、以前、アメリカのヨット・ クルーザー製造トリニティー社の代理店に勤めていたので船のことなら何でも知っている。
時間をみつけて乗馬クラブに通う 
家族と一緒のクルージングも楽しいが、今、ナタリヤさんが夢中になっているのは乗馬。小さな頃から馬が大好きで、 絵を描くといつも馬の絵だったという。
ナタリヤさんはペルミ市の出身だが、当時は乗馬を習うことはできなかった。乗馬を習い始めたのは、 モスクワで結婚して子どもたちがある程度成長して学校に通うようになり、多少は自分の時間を持てるようになった最近のことだという。
「わたしの最初の馬は15歳の馬でしたから、 非常に楽でした。今、乗っているハンノバー種の馬は、わたしが自分で育てた馬です。今8歳でとても力があります。 技術を身に付ければ10? 12歳には大きな賞を獲得できるはずです。 この秋には、彼と一緒に乗馬大会に出場するつもりです。
障害物越えというのは、単なる疾走ではなく、一種のダンスなのです。よく馴らすと乗り手と馬との間でテレパシーのような交感が生まれ、 こうしようという動きを考えると、馬がそれを理解してその通りに動くのです」という。
両親が新体操の教師だったこともあって、ナタリヤさんは新体操をやっていたのだが、怪我をして選手をあきらめ、 大学に進学し体育教師の資格をとった。スポーツで体と精神を鍛えたので自己コントロールができ、仕事もてきぱきとこなす。 会社での信頼度は厚く、副社長という重要ポストを任されている。
スポーツ大好き一家
夫のイーゴリさんの趣味はクルーズと自動車。時速200km出せる愛車のポルシェで、
今年、クレムリンの周りで行われたクラシックカー・レースに参加したほどだ。
2人の息子たちもスポーツ好き。上の息子はホッケーとテニスに熱中しており、下の息子はテニス一辺倒だ。 ナタリヤさん自身も毎週日曜日にはテニスコートで数時間汗を流すがこれは乗馬のため。馬に乗るには、体を鍛えていなければならないからだ。
ナタリヤさんは「今、ロシアで人気の三大スポーツといえば、クルーズ、乗馬、ゴルフです。 クルーズや乗馬が体力的に難しくなったらゴルフもやってみるつもりです」と意欲的だ。


